写真は下手でも大丈夫

 スタジオに来られたカメラマンさんが「オレはカメラマンになってから、写真が上手くなったよ。それまではスゲー下手クソだった。」と笑いながら話していました。

 

 ところで、僕には他の人にはない特殊な能力があります。ただし、あまり役には立ちません。それを誰かに披露しても、「へぇ~」っと関心されるくらい。それ以上の会話が続きません。だから、あまり積極的に公表していませんでした。実は、僕は会ったことも見たこともない人と電話で話すと、性別やだいたいの年齢はもちろん、その人の身長、顔かたち、髪型、服装、姿勢などがわかります。ほら、「へぇ~・・・」でしょ。

 

 でも、別にこの能力を自慢したいわけではないのです。正直、自分でもそれほど役に立つことがありません。強いて挙げれば、初めて会う人と人ごみで待ち合わせをしても、すぐに「あの人」とわかることくらいですから。で、お話ししたいのは、なぜ僕にこの能力が身についたかということです。

 

 僕は撮影スタジオの経営に責任を持つ立場です。以前は、その上で顧客からの予約などの電話対応も行っていました。ヘアサロン等でも、僕のように電話での予約管理業務をされている方は大勢います。でも、ほとんどの方は僕の言う特殊能力のことを意識したことはないかもしれません。では、僕は何が違ったのか。それは、多くの方が「電話対応」という業務を仕事としていたところ、僕は立場上「電話対応からその後の顧客満足まで」全ての責任を負わなければいけないポジションだったからなのです。

 

 それと一緒にするのは忍びないのですが、僕はこの特殊な能力が自分に身に付いたワケをわかっているので、プロのフォトグラファーが仕事を重ねることで、ますます素敵な写真を撮れるようになっていく理由が理解できます。実際のプロは、自分の仕事(写真)に広告イメージや編集ページの命運を賭けてくれたデザイナーや編集者、クライアントの期待に応えなくてはなりません。まさに責任重大です。それが大きな仕事になればなる程、絶対に失敗は許されない状況の中で、ますますクオリティの高いものを求められるようになるのです。僕の知り合いはカメラマンデビューの日、そのプレッシャーのあまり朝からトイレでゲロゲロしていました。

 

 人は責任の重い仕事を任され、それに応えるべく努力することで成長するものです。五感のすべてを働かせ目の前の問題解決のために頭と体を最適化する。そうすることで、格段に写真(仕事)のクオリティが上がっていくのです。無責任な話しですが、だから最初のうちは写真が下手でも構わないのかもしれません。ライアン・マッギンレーですら、注目される以前のライアンは、今ほどマッギンレーではなかったはずです。もちろん、「写真が上手くなるために必要な仕事」をもらうために、クオリティの高い作品が必要なのは言うまでもありませんが、その話はまた別の機会に。ちなみに、トイレにこもっていた僕の知り合いは、無事プレッシャーを乗り越えて、今では最高にカッコいい写真を撮る、超人気フォトグラファーです。