2008年のリーマンショック以降、「写真作家」志望の若い人はめっきり減った気がします。写真系の学校も、以前よりは学生に「作家」な生き方を推さなくなったのかもしれません。それでも、「写真作家」に憧れる方や、いずれはそうなりたいという方はけっこういるのではないかと思います。
ところで、僕の知り合いにこんな人がいます。学校卒業後、コマーシャル撮影のプロダクションに勤めた後、独立。自分の事務所兼スタジオで、物撮りも人物も広告撮影なら何でも精力的にこなしていました。そのうち、仕事が軌道に乗り出した頃から、1年に2ヶ月間だけ、完全な休暇を取って自分の好きな写真に没頭するようになります。
日頃から仕事を振ってくれるデザイナーやディレクターには、そのワガママを丁重にお詫びしていました。そして、バックパックいっぱいに詰めたフィルムと、愛用のライカを首から下げて海外に行ってしまうのです。1か月後に帰国すると、暗室にこもり、撮ってきたフィルムの現像からプリントに没頭。正月には有名なギャラリーを借り切り、写真展を開催します。
それに合わせて、日頃からお世話になっているデザイナーやアートディレクターにも案内を送ります。会期中は、普段の仕事とは趣の違う写真に多くのクライアントが驚き、今まで知らなかった彼の一面をしっかりアピール。そのうち、デザイナー等から振られる仕事が今までのかっちりした広告撮影から、徐々に作品イメージに近い依頼もくるようになっていきます。
その後、数年間、年末の2カ月間の休暇(撮影旅行と暗室作業と写真展)を繰り返すうちに、精神的にも、経済的にも、知り合いにとって納得のいく形で仕事が来るようになっていきました。それから十数年。今では、悠々自適に写真家生活を送っています。
学生の頃から「写真作家」を目指すようになり、卒業後はフリーターで生計を立てつつ、作品を撮り貯め、なけなしのお金をはたいて控えめなギャラリーを借り、学校時代の先生や友人、バイト先の知り合い、ネットで知り合った人たちを呼んで写真展を開く。それももちろん、悪くはありません。ただ、長い目で見たとき、僕の知り合いのようなやり方(商業的なポジションを固めた上で、少しづつ移行していく)も結構アリなのではないかと思うのですが、いかがでしょう?