以前、カジュアルなオープンキッチンのイタリア料理店で食事をしていた時のことです。そこにテレビにも取り上げられるほど有名なシェフがお客として来店。カウンター席にいた僕の隣にたまたま座られました。僕の友人でもあるその店の主人は、そのシェフを見るや直立不動になり緊張した面持ちで「いらっしゃいませ!」とあいさつ。有名なシェフは静かな口調で、「シェフ、パスタをお願いします。」とだけ言いました。
いつも陽気な友人は、僕も初めて見るほど神妙な顔つきでパスタを作り、いつものように減らず口をたたいて客いじりをするようなこともなく、「お待たせしました。」と言って皿を有名なシェフの前に出しました。その後、有名なシェフは出されたパスタを一口食べ、「おいしいです。」と一言。僕の友人は、「ありがとうございます!」と返し、その後有名なシェフが店を出るまで、二人に会話はありませんでした。
有名なシェフが帰られた後、僕は気の抜けた友人シェフに先ほどの「パスタ」って何?と聞いてみました。「ペペロンチーノ。ごまかしが効かないから、イタリアンで一番シェフの腕がわかってしまう料理。あーゆう時は、これって決まってるんだよ。今日はもう閉店。さあ、飲むぞー!」その日の店の営業に使うべきエネルギーを全部使い果たしてしまった僕の友人は、そのままカウンターでただの酔っ払いになってしまいました。
イタリアンに「ペペロンチーノ」があるように、カクテルを作るバーテンダーの間では「マティーニ」がそれにあたると聞いたことがあります。どちらも材料が少なくシンプルゆえにごまかしが効かず、作る者の腕が如実に出てしまうものだそうです。もしかしたら、料理だけでなく、美容師さんにもこのような技が存在するかもしれません。それでは、写真はどうなのか?
被写体の力に頼ることなく、シンプルでごまかしの効かないもの。次回のスタッフフォト(9月16日~30日掲載予定)は、スタッフみんなでこれにチャレンジしています。
■撮影共通テーマ
◎自分で選んだ四字熟語を白床・白壁の中の白い立方体のみで表現する。
■撮影条件
◎白黒写真(色は一切乗せるの禁止)
◎背景はスタジオのホリ(白床・壁)のみ
◎被写体はサイコロのみ(数と組み合わせ方は自由)
◎合成禁止
■ 限られた要素のみで、どれだけ表現できるか
◎被写体の構成
◎カメラ位置
◎ライティング
◎レンズの選択
◎画面の粒状性
◎コントラスト
◎被写界深度とピント位置
以上。
いぇ~い、スタッフにプレッシャーかけてやったぜ!