最高の想い出(スタジオスタッフの頃から付き合い出して10年、やっと入籍した二人の話)

 「遅れてすみません。今、駐車場に車を停めているところです。」仕事の関係で、二人が相模原のキャンプ場に着いたのは、予定から遅れること数時間。夜の11時をまわっていました。山ちゃんからの電話をもらった僕が、二人を迎えにいきます。

 

 キャンプサイトから懐中電灯を片手に夜の山道を下ること数分、駐車場に山ちゃんとサト子さんは待っていました。この日は、うちの家族と一緒にキャンプをしようよと、スタジオの10年ほど前のスタッフだったお二人を僕から誘ったのです。ただ、二人はこの日撮影の仕事が入っていたので、都内からも程近いキャンプ場で現地待ち合わせをしていました。

 

 二人はスタジオスタッフの頃から、僕には内緒で付き合っていました。その後も付き合いは続き、最近になってやっと入籍したのです。ただ、結婚式はやらないとのことでした。二人揃っての意向ならいいのですが、サト子さんが昔からマイペースな山ちゃんに合わせているだけなんじゃないかと、少し気がかりではありました。

 

 キャンプ場の駐車場からキャンプサイトまで、懐中電灯を頼りに来た道を戻っていくと、サイトの入り口にほのかな光に照らされて、うちの子供たちが二人を待っていました。娘と息子がそれぞれサト子さんと山ちゃんに花束を渡し、二人の手を取り先導役を僕と交代しました。

 

 お役御免となった僕は、闇に紛れて足早にサイトの一番奥に向かいます。二人は子供たちに導かれるまま、奥に細長いサイトをゆっくりと歩いていきます。途中、この夜中にも関わらず歌舞伎を舞う人がスポットライトに照らされていました。「え?」と顔を見合わせる二人でしたが、子供たちは構うことなく奥へと進みます。すると、お洒落なテーブルクロスの上にセンス良く並べられた食べ物や飲み物、キャンドルが乗っています。「え?なに?なに?」と言う二人でしたが、子供たちはさらに奥の薄暗い場所へ二人を導いていきました。

 

 そして、両側の暗闇から、それまで隠れていた彼らのスタジオ時代の同僚10人とその家族の方々が出てきて二人を取り囲みました。みんなで「結婚おめでとう!」と言いながら。このキャンプは、二人の結婚を祝うサプライズ結婚式だったのです。新婦のサト子さんは感極まって泣いていました。山ちゃんも、まったく予期していなかった展開にビックリしながら、昔から仲の良いメンバーに祝福され、満面の笑みです。ちなみに僕はといえば、サイトの一番奥に作った簡易の教会に神父の格好をして、聖書を片手に二人が来るのを待っていました。

 

 

 元々、この企画は元スタッフのみんなが居酒屋で飲んでいた時に出てきたのだそうです。「何で二人は結婚式をしないんだ。どうせ、俺らが言っても山ちゃんは嫌だというだろう。それなら、田辺に頼んで、山ちゃんの好きなキャンプに二人を誘ってもらって、そこで無理やり挙げちゃおう。」となったのです。当日は現地で朝早くからみんなが準備に取りかかっていました。素敵な素敵な飾り付けや、雑誌の切り抜きそのままのお洒落なテーブルセッティングは、元スタッフたちの家族の皆さんのお蔭です。

 

 最高の仲間たちと、最高の結婚式の想い出です。