僕が若かった頃、僕は自分のことをすごく頭のいい人間だと思っていました。どんな状況下でも自分の損得を計算し、その上で賢く無駄なく行動することを当然だと考えていました。周りを見ては、絶対に自分が損をする立場にならないよう、上手に立ち居振る舞える自信がありました。そんな僕でしたから、お人好しって、ただのバカキャラだと思っていました。自分が損してまで人に優しくするって、その見返りが計算できない限り僕の中ではあり得ないことでした。
こんな僕でしたから、当然『情けは人のためならず』ってことわざの意味は、「弱者に情けをかけるとその人の依存体質が強まってしまうので、結果的にその人のためにならない。」ことだと思っていました。
でも、実のところ僕はヘッポコカメラマンだったので、ほとんどの仕事は周りのカメラマン仲間や先輩カメラマンから回して頂いた撮影ばかりでした。今、僕はそうやって昔お世話になった方々に、ごく自然に感謝の気持ちを込めて何か自分に出来ることを探しています。そこには計算もなければ、見返りを期待する気持ちもありません。
専属のアシスタントを雇っているカメラマン(写真家・フォトグラファー)がいます。ほとんどのアシスタントさんは、数年で独立していくのが業界では常識です。若い頃の僕は、もし自分がアシスタントを雇うようになったら、アシスタントには自分が苦労して得たクライアントに指一本触れてもらいたくないと考えていました。独立後は自力で自分のクライアントを開拓するのが当然だと思っていたからです。でも、ヘッポコな僕には自分で開拓したクライアントなんて一つもありませんでした。
普通に考えれば、師匠の自分が苦労して開拓したクライアントをアシスタントが独立するたびに共有するようになっては師匠の仕事が減っていってしまいそうです。自分で自分の首を絞めるなんて、ちょっと信じられません。
でも、僕の周りの尊敬できる多くのカメラマンは、自分のアシスタントの成長や独立を様々な形で応援しています。もちろん、仕事には厳しい方ばかりです。それでも、元アシスタントが活躍できるようになれば自分のことのように喜んでいます。統計を取ったわけではありません。データ的な根拠を出せと言われても正直困ります。ただ、実際、そのようなカメラマンのほうが、この業界の中で仕事を減らすどころか、長く現役を続けている気がします。
『情けは人のためならず』、恥ずかしながらこの歳になってやっと、本当の意味を理解した次第です。