知り合いのフォトグラファーは、スタジオを出た後、カメラマンとして仕事をもらうべくブック(営業用の作品集)を持っていくつかのクライアントを回りました。そして、行った先々でことごとく自分の写真をボロクソに言われ、ショックを受け落ち込むと同時に、自分のそれまでの甘さに気付かされたそうです。
今では、撮影の依頼に忙しい毎日を送る彼の言葉です。「人は若いうちに挫折しておくべきだね。あの時の挫折がなかったら、今の自分はないよ。」
僕はカメラマン(写真家)を目指すスタッフの人たちを長い間見てきました。その結果、人は2種類の成長が絡み合いながら大きくなっていくものなのだと思うに至りました。
一つは、誰もが想像に難くない『技術・知識的な成長』。教えてもらったり、調べたり、ググったりして、覚えたり、練習したり、慣れたりすることで上達する成長です。
もう一つが、『ブレイクスルー的な成長』。それまでは何も思うことがなかった何かの行為に意味を見出すことで、ものの見方や意識が変わる内面的な成長です。新しい価値観や考え方・視点を得ることで、その壁を突破できるようになります。
来春、この業界に新卒で入ってくることを予定している方の中には不安を抱える方も大勢いると思います。その不安の主な原因は、この『ブレイクスルー的成長』における困難や試練に自分が耐えられるだろうかというものだと思います。
でも、実は皆さんは、もうすでにこの困難や試練を経験済みなのをご存知でしょうか?
皆さんが生まれたばかりの赤ん坊だった頃、オギャーと泣くことは大切な武器でした。お腹がすいた、眠い、おしめの中が気持ち悪い、何となく嫌、生きていく上での様々なストレスが赤ん坊のあなたにのしかかります。で、オギャーと泣いてお母さんに訴えることが、そのストレスを解決させる唯一の手段だったのです。
その赤ん坊も、少し大きくなってくると、お母さんに「自分で食べなさい」とか「自分で歩きなさい」と言われるようになります。それまでは、お母さんがやってくれたり与えてくれたりすることが当然と信じていたことが、思い通りにいかなくなってしまうのです。
この理不尽この上ない不当な押し付けに対し、子供のあなたは当然、唯一の武器である泣いて訴える作戦でその場を乗り切ろうとしました。でも、お母さんはあなたの成長を思うからこそ「自分でやること」、「ダメなものはダメ」を子供のあなたがわかるまで根気強く、泣きじゃくるあなたを無視し続けます。
やがて、あなたは自分で食べなくてはいけないことと引き換えに、自分の意志で食べる自由を手にしました。おんぶや抱っこをしてもらえなくなることと引き換えに、自分の足で好きな場所に行く自由も手にしました。
あなたが赤ちゃんとしてこの世に生を受けたとき、あなたはそんなブラックな仕打ちを実の母親から受けるとは思ってもみなかったはずです。業界初心者に大切なことは、赤ん坊のように純粋無垢な心と、あれこれ心配しない鈍感力なのかもしれません。
あなたにすでに備わっている才能です。だから、きっと大丈夫です。
#撮影#スタジオ