心意気をまとう

 

 先日、字のごとく世界を股に駆け回っているスタジオのOBフォトグラファーから、ロケアシスタントの依頼がきました。日本での撮影のため、来日したのだそうです。

 

 彼は外苑スタジオの人なら誰でもいいとのことだったのですが、僕はそこで一計を案じてみました。

 

 スタッフに彼の名前を出せば、誰もが飛びついてくるに決まっています。そこで、僕はあえてフォトグラファー名を出さずに、「○月○日のロケに行きたい人は名乗り出て。」とみんなに伝えたのです。

 

 すると、まったく興味を示さないスタッフが約半数。残り半数のスタッフが食いついてきました。

 

 と、いっても、みんな「誰の撮影ですか?」とか、「何の撮影ですか?」、「時間は長いですか?その日は用事があって、、、」と聞いてくるだけです。条件次第でやるかどうかを決めたいようです。

 

 そんな中で、Sくん一人だけが何も聞かずに「はい。オレやります。」と手を挙げてきました。そこで、僕はこのロケをSくんに任せることにしました。

 

 

 

 僕はマネージャーです。スタッフを活かすことで、大切なお客様の期待に応えるのが僕の仕事です。だから、当然このロケにも、経験値が高く優秀なスタッフを出すことで、フォトグラファーに「やっぱり外苑スタジオはいいな」と印象付けたいと考えます。

 

 でも、現実には限られた人数とその戦力の中で、その日のスタジオやロケを回さなければなりません。その中では様々な兼ね合いがあり、あっちを立てればこっちが立たずな状態の中、最善の策をとらなければならないのです。

 

 だから、仕事も人柄も申し分ないスタッフを充てることが無理なら、せめて「心意気だけでも良い人」を出そうと思います。仮に、このスタジオに「仕事の知識は豊富だけど、精神的には幼稚な人」がいたとしても、そういう人は出しません。

 

 だって、カメラ機材知識やテクニックに詳しい人は重宝がられます。でも、その人と一緒に仕事をしたいと思われるかどうかは、まったく別の問題だからです。

 

 

 

 

 あなたが誰かに仕事を頼んだとします。屈託なく持ちうる全てを惜しげもなく使って一生懸命やってくれる人と、常に自分の損得を天秤にかけ値踏みしながらやる人ではどちらに好感を持ちますか?

 

 スタジオマネージャーの僕も、フォトグラファーに仕事をふる立場の人も、みんな一緒だと思います。要は心意気なのです。

 

 

 

 

 OBフォトグラファーのロケでのSくんの働きは、申し分のないものだったようです。「次のロケもSくんでお願いしたい。」と言ってきてくれたくらいですから。

 

 

 

 心意気。

 

 

 最近、あまり聞かなくなった言葉のような気がします。

 

 人がまとう空気は様々ありますが、今、僕が最も復権してほしいと願う空気感です。