スタジオに入社して1年が経ち、今後の自分の方向性に悩むスタッフから、アドバイスを求められました。今後も人物を撮っていきたいということは自分の中で明確に見えているそうなのですが、それをどうやって仕事につなげていけばいいのかがわからないそうです。
僕はもちろんフォトグラファーではありませんので、フォトグラファーの方々ご自身が体現している成功例に基づいた具体的なアドバイスはできません。一般論として、その方向が良いか良くないか、過去の統計的なデータに基づき語るのみです。
まず、スタジオ入社1年くらいの人(特に男子)の多くは、これといった根拠もなく自分の写真に絶対的な自信を持っています。この先、自分がどうすればいいかはわからないけど、何とかなるだろうという漠然とした安心感です。
ただ、この自信は、100人中99人が、現実を知らないだけの「井の中の蛙、大海を知らず」状態に過ぎません。いざ、フォトグラファーとして仕事を得るべく具体的な活動を始めれば、自分と自分の作品の無力感をまざまざと知ることになります。
厳しい物言いかもしれませんが、それで落ち込み、自信を失くし、フォトグラファーになること自体を諦めるならそれまでの話です。だから、ほとんどのフォトグラファーは、いつの段階でか、この壁にぶち当たり乗り越えてきた人だということを知っておくべきだと思います。
これこそ、本当の意味でのスタートだと心得ておくべきなのではないでしょうか。天才の定義にもよりますが、僕の統計によれば、あなたが天才である確率は0.04%に過ぎませんので。
次にどうやって仕事につなげていくのかという問題ですが、これはフォトグラファーに仕事を振る立場の方々に自分の存在をどうやって知らしめるかということです。今風に言えば、インスタのフォロワー数を何万、何十万にするとかがすぐに思いつきます。
でも、実際には誰もがやろうと思って簡単にできるものではありません。扱うテーマやテイストによって、万人受けするものか、わかる人にしかわからないものなのか、撮る側にそのコントロールは難しいからです。
自身のWEBサイトを作るのは必然ですが、これだって作ったからといって無名な人のサイトに、いきなり何千、何万という人が見に来てくれるようなことはありません。まずは、フォトグラファーからするところのクライアントに、自分の存在へ興味を持ってもらうこと。その上で、WEBサイトに来てもらい、自分のテイストや実績を知ってもらうことです。
そのための方法は、色々あります。王道もあれば、ひょんなことも、レアなパターンも、本当に様々あるので、これについては、また別の機会に書こうと思います。
ちなみに、若い人の間で写真集を作る人が増えているようですが、余程の人脈を持っていない限り、作れば売れるってものではありません。もちろん、すでに知名度や実績が無い限り、作った写真集が話題になり、そこから仕事が来るようになるってことも99%以上の確率でありません。そもそも、日本に写真集の印税収入だけで生活できている写真家はほとんどいないのが現実なのです。
一つ言えることは、あれこれ考えるだけでなく、ありとあらゆる行動をしてみること。REPでも、エージェンシーでも、マネージメント事務所でも、出版社でも、制作会社でも、デザイン事務所でも、片っ端から自分の作品を持ち込む。
70%は箸にも棒にもかからないと思います。20%は自分の存在すら否定されるほど辛口な言葉を頂く羽目になるかもしれません。それでも10%は今後の参考になるアドバイスを頂けるかもしれません。そのような一筋縄ではいかない現実を十回、二十回とやっていくうちに、気の合う人や応援してくれる人が少しずつ増えてくるはずです。何十回とやっていけば、仕事のチャンスを頂けるかもしれません。その時、そのチャンスをモノにできるかどうかはあなた次第です。
そんなのとても無理と言うのなら、すでに多くのクライアントと信頼関係を作っているフォトグラファーのアシスタントとなることで、写真のことはもちろんのこと、クライアントとの信頼関係の築き方も含めて勉強する立場になることです。クライアントの前で、師匠に信頼されている場面をアピールできれば、思わぬ特典もあるかもしれません。
若い人が、自分の進むべき写真の方向性に悩むとか、自分は写真によって何がしたいのか考えるとかって、よく聞く話です。でも、そこに陥ってしまっている状況ってムダというか、間違っています。
ファッションフォトグラファーに憧れ、ファッション写真をブックに収め、ページレイアウトを考えて合間に物撮りのカットを入れておいたら、物撮りの依頼がきて、気付いたらスチルライフの世界では結構有名になっていたって方がいます。同じように、建築写真家をやっている方もいます。
写真も仕事もやってみなくちゃわかりません。もちろん、自分のコダワリは大切です。でも実は、人から求められることにこそ、先見性はあるものです。
人を呼ぶって意味の英語「calling」。これって、呼ぶってこと以外に、職業とか天職って意味もあるそうです。呼ばれるくらいだからこそ、仕事として成り立つのだと思うのです。