若い頃、遊び人だった男性が父親になり娘を持つと、世の若い男はみんな昔の自分のようなロクでなしだと思っているので、自分の娘が悪い男に遊ばれないかと過度に心配になるという話を聞いたことがあります。
ところで、「もう、スタジオに入って2年経ったし、それよりも海外にしばらく行ってみたいと思い、スタジオを辞めたい。」これは、ここ数年のスタジオを辞めたいと言ってくる人がよく言うセリフです。この海外に行きたくてスタジオを辞めたい人が、これを海外渡航歴のある現役フォトグラファーに相談すると、ほぼ100%の確率で「行きたいなら行けばいいじゃん。」と言われます。
海外に行きたくてスタジオを辞めたい人は、「やっぱ、自分は正しい」と自信を得て、辞める決意を固めます。ここまでくると、もうマネージャーの僕が何を言っても無駄、その人の中には行けば何とかなるだろうということしか頭にありません。
その結果は大きく分けて3パターン。一番多いパターンは、行ったところでどうにもならないけど、日本よりも気軽で自由だから住みやすく、そのまま居ついて名乗る肩書はフォトグラファー、稼ぎの99.9%はバイトな人となります。
次に多いパターンが現地で活躍されているフォトグラファーのアシスタントになるパターン。もっとも、この場合はほとんどの人が、日本に居るうちにアシスタントに就くことを決め、アシスタントになることを目的に渡航しています。
一番レアなパターンは、現地に溶け込み、何とか食らいついて、ギャラはほとんどないけれど、フォトグラファーとして仕事の依頼を受けるようになる人。ただし、日本と違い、欧米のほとんどは雑誌等の撮影はクレジットが載るかわりにギャラ(報酬)はほとんどありません。
ギャラが無い以上、食えないので何かしらのバイトをしています。ただし、上の多数派と違うところは、海外でそれなりに認められている人は、日本に帰ってくればギャラのある仕事に困りません。その結果、海外と日本を行ったり来たりされているフォトグラファーは結構いらっしゃいます。
まとめます。
海外に行って何とかなる人は、「しっかりと計画を立て、自分を向かい入れてくれる人を現地に得た上で、アシスタントという目的を持って行く人。」と、「才能や情熱を尋常じゃないほど強く持っていて、自分で切り開く度量のある人(レア)。」です。
海外に行ってもどうにもならない人は、「行けばなんとかなるだろうとか、何となく自分の生きる場所はこの日本ではなく海外のどこかにあると心の底から強く感じる的な思いだけで行ってしまう人。」です。もちろん、そうやって行ってみて、自分が受け入れてもらえない現状を挫折と捉えれば、次の展開も見えるとは思いますが、多くの方が挫折と認めず自分がまだ発展途上だからという理由にしがみついたまま時だけが流れていきます。
ちなみに先にも書きました、海外渡航歴のある現役フォトグラファーに相談すると、ほぼ100%の確率で「行きたいなら行けばいいじゃん。」と言われるのは、海外渡航を自分自身のステージアップに出来た人だから肯定的な意見をお持ちなのです。
僕は若い頃、超行き当たりばったりに職を変え、職場も変え、やりたいことまで変わっていました。そんな僕も、今では、嫌われようが、煙たがられようが、スタジオスタッフがこの業界にいる限り、業界内お父さんのつもりです。
お父さんは、しっかり者の子供には目を細めますが、行き当たりばったりの無計画で「感覚」だか「自分の中の野生」だかに従って行動している子供は気が気でなりません。元を正せば、自分自身も若い頃、そうだったからってだけの話なのですが。