女性アイドルグループの影響が大きいのだと思います。今、企業にお勤めの方の間で、勤めていた会社を辞める際に「会社を卒業します」と言う方が増えているそうです。
僕のいるスタジオでも、スタジオを出ることを「卒業」と表現するスタッフがいます。この国がまだ汗ばんでいた頃に生まれた僕としては、この「卒業」という言葉の安易な使用を禁止にしようと思うのです。
最近の「卒業」の定義って、それまで続けてきたことにピリオドを打ち、違う場所で活動することを自分の意思で決めたってことのようです。でも、もし仮にスタッフがスタジオ卒業理由を「普通の人に戻りたいから」なんて言ってきたら、僕は有名プロデューサーのような大人の対応をする自信がありません。
だって、女優でも、バラエティータレントでも、ピンで歌手でも何でもいいから、せっかく学んだことを活かし発展的方向に活躍の場を見出してもらいたいじゃないですか。
違いました。
フォトグラファーとして活躍する人に成れるべく歩を先に進めて欲しいじゃないですか!
例えば、プロとして撮影依頼を受けられるだけのクオリティーの写真が撮れるというのなら、その方向に邁進してもらいたい。
ただし、業界歴30年の僕の知る限り、この方向で行こうと考える人の8割はうぬぼれ勘違い野郎です。だからその方向に進む人の多くが、その後、大きな挫折を経験します。
それでも、その挫折に打ちのめされることなく、真摯にその根本的問題をクリアし乗り越えていければ、納得のいく結果につながる可能性は充分にあります。ただ、現実は、挫折を挫折と認めることができず、乗り越えるべき問題を解決しないままフェイドアウトしていく方が少なくありません。
その意味では、スタジオ後フォトグラファーのアシスタントに就くという選択肢は堅実な選択といえます。現在活躍されているフォトグラファーにそこに至るまでの経緯をお聞きしても、フォトグラファーアシスタントというポジションが確実であることに間違いはないようですから。
ただし、ここにも落とし穴は存在します。それは、アシスタントをクビになるリスクがあるといことです。
ここでいうクビとは、明確に「あなたはクビ」と宣告されるものもあれば、なんか体良く追い出されるとか、要するに師匠から独立後、「(師匠の名)師事」と謳うことを許してもらえない関係全てを含みます。
なぜ、こんなことが起きるのか?
それは、アシスタント側の器量の無さに原因があります。
フォトグラファーアシスタントの募集告知には「スタジオ経験者優遇」という言葉をよく見かけます。だからといって、撮影スタジオでのアシスタント経験があるというだけで、どんなフォトグラファーのアシスタントも勤まると考えるのは早計です。その意味でロケアシスタント経験は貴重ですが、それだけでも充分ではありません。
究極的に言えば、フォトグラファーのアシスタントは、フォトグラファーのことを基本的にシャッターを押すこと以外のことが煩わしい人と考えればいいのです。だから、アシスタントの自分がシャッター以外の全てに責任を持つくらいの覚悟を持っておくべきなのです。
そのために、スタジオ経験を通して学ぶ機材の取り扱いや撮影の流れ、ロケ撮影を通して学ぶ、現場での対応力と事前準備の大切さ。そして、レタッチやデジタルテックに関すること。
それらへの信頼度を師匠が安心して自分に任せてくれるレベルまで上げなくてはいけません。と、同時に様々な人間関係やコミュニケーション、撮影現場の空気など、やるべきことや配慮しておくべき事を数え上げたらキリがありません。
下心丸出しな話をすれば、師匠のクライアントや関係者に、師匠がアシスタント(自分)のことを信頼している姿を見て頂くことは超重要です。自分がフォトグラファーとして独立する際の、最高の営業となるわけですから。
逆に言えば、クライアントや関係者の前で、師匠が自分のアシスタントに頭を抱える姿を見せてしまっては、業界に自分は仕事のできない人間ですということをアピールしているようなものです。独立したって、アシスタント時代の人脈が生きることに期待はできません。
もちろん、独立するまでの間に自分の写真のクオリティーを師匠がOKを出してくれるレベルにまで上げておくのは当然です。師匠だって、自分の名前を出される以上、恥ずかしい写真は撮って欲しくないはずですから。
スタジオ卒業の定義は、自分よがりにこれで充分とするものではありません。ただ単に入社してから〇年が経ったという期間の問題でもなければ、自分の同期がみんな卒業していったのでというような主体性の無いものでもないのです。
自分自身のキャリアのためには次のステップをどうするにせよ、自分が選択したステージでの勝算の確実性が何よりも重要です。写真のクオリティーも、アシスタントのスキルも、根拠のない自己満足ではなく、見る目を持った第三者の正直な評価があってこそのものなのです。
この国が汗ばんでいた頃に生まれたおっさんは、お節介なんです。せっかく外苑スタジオを卒業したって言うのなら、活躍して欲しいですもん。