ずっと昔のスタッフだったSくんは、スタジオを出たあとフォトグラファーのアシスタントに就き、数年後に独立。たちまち売れっ子フォトグラファーの仲間入りを果たしました。
と言っても、普段の生活に関してまったく無頓着なSくんは、撮影に関わる仕事を集中してできる環境さえあれば、他は何もいらないというタイプでした。いつしか、Sくんは微妙に遠い自分の家には帰らず、僕のいるスタジオで寝泊まりするようになっていきました。
クライアントとの打ち合わせはスタジオのロビーで。撮影はもちろんスタジオで。レタッチはスタジオのMacで。たまのロケには、スタジオの機材車にスタッフと機材を乗せて。すべてがスタジオで完結していたので、彼は自然にスタジオの住人になっていったのです。
彼はフィルムの時代から、移行期を経て、デジタル全盛となった時代も、十数年にわたってスタジオに住んでいました。
今、振り返って想うと、Sくんが居た頃スタジオスタッフだった人は、彼から様々なことを学べました。どれだけ歳が離れていても偉ぶることのない彼は、朴訥としてぶっきらぼうでしたが教えを乞う人には誰にでも親切だったからです。
フィルムの頃、スタジオにはスタッフ用のカラー現像室がありました。スタッフがSくんにカラー現像のことを聞けば、一晩中暗室内でカラー現像のイロハを教えてくれていました。
スタジオの撮影で、スタッフがライティングや機材にまつわることを聞けば、これまた実際にやって見せながらとことん教えてくれました。
デジタルの時代になると彼はレタッチをいち早くマスターし、これまた聞きに来るスタッフに見方ややり方、考え方を丁寧に教え、時には課題を出して成長を促してくれました。
そうやって、Sくんから何かを教えてもらい、その後フォトグラファーとして活躍している人は大勢います。もちろん、自分なりに大変な努力をした方もいれば、スタジオ後師匠に就いてしっかりアシスタントを務めた方もいます。Sくんがフォトグラファーになるためのすべてを与えたわけではありません。
ただ、Sくんがスタジオに住んでいた頃、Sくんに何かしら教えを乞いにいったスタッフだけが、今フォトグラファーをやっています。反面、Sくんに自ら進んで教えを乞わなかった人は、今どこで何をやっているのかわかりません。
世の中に評価され売れているフォトグラファーであり、スキルもセンスも業界内で定評のある人が目の前にいるにも関わらず、しかも優しく親切丁寧に教えてくれていたにも関わらずにです。
いつの時代もやる人はやります。やらない人は周りがどれだけお膳立てをしてもやりません。フォトグラファーを目指しながら成れる人と成れない人の違いは、センスでも才能でもなく、ただ単にやる人かやらない人かの違いだけなのです。
時は変わって、現在。スタッフが撮る作品をこのサイト(外苑マガジン)やインスタ、FBに上げていることに対し、一部のスタッフから本音が漏れ聞こえてきました。
「自分は人に認められたくて写真をやっているわけではない」
「インスタやフェースブックでいいね!をもらえる写真が撮りたいとは思わない」
いつの時代もやる人はやります。やらない人は何だかんだもっともらしい言い訳をすることで、やらない自分を一生懸命肯定します。そのことに気付いて欲しいなーと強く思います。
手遅れになる前に。