この春に入社した新人スタッフの研修も、いよいよ追い込みの時期になってきました。でも、カリキュラムの一つ、映像・写真関連の用語が何人かのスタッフとどうも噛み合いません。聞けばみんなネタ元にキャノンの「写真用語集」サイトを利用しているとのこと。
https://ptl.imagegateway.net/contents/original/glossary/index.html
確認のため、そのサイトを覗いてみたらびっくり。
ちょっと専門的な話ですが、レンズに入ってくる光のうち、写真を白っぽくモヤっとさせてしまうものには、「ハレーション」と「フレア」の2種類があると。僕は、今の今まで知りませんでした。
しかも、「ハレーション」とはフィルムの構造上起きてしまう現象のことなので、デジカメでは起きえないとのこと。デジカメでも起きる白っぽいモヤっは、レンズの鏡胴内などでの余計な反射光による光カブリで、それは「フレア」というとのこと。
業界歴30数年。初めて知った驚愕の事実。これって業界の常識だったのでしょうか?
でも、ちょっと待って。
それが正しいなら、撮影現場で言うところの「ハレ切り」って、切っているのは「ハレーション」ではなく、「フレア」ってことです。だったら、なぜ「フレ切り」と呼ばず「ハレ切り」と呼ばれているのか。
でも、キャノンのような大企業のサイトがそんなに簡単に間違ったことを書くとは思えないし、やっぱり僕が間違っているのか?
そう考えていて思い出したのが、フジのポラです。
昔、フィルム全盛の頃、写っている画像を現場ですぐに確認する術の無かった時代。アメリカのポラロイド社から出たインスタントフィルムは、とても画期的な商品でした。「ポラ」という呼称がインスタントフィルムの代名詞として日本の写真業界に定着するのはごく自然な流れだったと思います。
しかし、その後、後発のフジフィルムもインスタントフィルムを発売。フジフィルムのほうが発色良く格段にキレイで鮮明だったため、それまで独占市場だったポラロイドの「ポラ」を席巻。この業界では、その後も皆さんフジのインスタントフィルムを「ポラ」と呼んで使っていました。
きっと、「ハレ切り」も同じ構図だったのではないかと考えます。
映像も写真もフィルムしか無かった時代。今で言うところの「ハレーション」も「フレア」も、画面を白っぽくモヤっとさせてしまうものとして一言「ハレーション」と呼んでいた。撮影現場ではそれを画面効果として使用しない限り、鮮明さを失わせる邪魔な光なので、それを切る方法が発達。それが「ハレ切り」と呼ばれた。
でも、時代が変わりデジカメが出てくる。カメラメーカーは、消費者に対し、それまで誰もが持っていたフィルムカメラをデジタルカメラに買い替えさせるため、積極的にデジカメの優位性を宣伝する。デジカメはこれまでのフィルムカメラと違い、「ハレーション」がありません。モヤっとしちゃうのは「フレア」です、と。で、ハレ切りはフレアを切っていたってことが明らかになった。
まーいずれにせよ、これからは正しい名前を使うべきだなんて言うつもりはありません。僕のいるスタジオでは、これからもこの「フレア切り」のことを「ハレ切り」と呼んでいくつもりです。もちろん、新人スタッフにはこの辺の事情を説明した上でですけど。
でも、どうせ間違っているんだし、英語がネイティブな人が入社してきたら「ハラ切り」って教えたら面白いかな~なんて良からぬ考えが頭に浮かんでいるのはここだけの秘密です。