ホント、しみじみ思うようになりました。このスタジオを経てカメラマンになった人たちの存在が、僕を幸せな気持ちにさせてくれるということに。
別に、スタジオのお客さまとして売上を落としていってくれるからというわけではありません。もちろん、それは有難いことですが、カメラマンとして生きているのなら、どこで何をやっていても構わないのです。
スタジオ時代に僕自身がその方々に何を与えたわけではありません。ただ、人生のある時期、それぞれの将来像を胸に、縁あってこのスタジオに入られた方が、やがてその想いを実現する。身近に頑張っている姿を見ていた気心知れた仲間の活躍は、ただただ嬉しいものなのです。
ところで先日、スタジオスタッフの面接に来られた方がいました。僕はその採用を泣く泣く見送りました。
とてもいい人でした。やる気もありそうだし、考え方もしっかりしているように見受けられました。仮に彼が同業他社さんの採用面接を受けたら、ほとんどの撮影スタジオさんが採用に前向きになるだろうことは容易く予想できます。
僕は面接中、他社さんに取られるくらいなら、僕のいるスタジオで採用してしまおうって気持ちを抑えつつ、このタイミングでの採用を見送りました。
彼には「1年後にまた来てください。」と伝えて。
せっかく僕のいるスタジオに入社するのなら、将来はカメラマンとなって活躍するようになってもらいたいのです。そのためには、このスタジオを踏み台に高く跳んでもらわなければなりません。
思いっ切り高く跳んでもらうためには、しっかり踏み込む必要があります。そのためには、力強い助走が欠かせません。その意味で、失敗が許される撮影スタジオはうってつけの場所ですから。
でも、どこに向かって跳ぶか、その方向は自分自身とその写真を掘り下げていくことでしか見えません。とりあえずスタジオに入って色々見れば、おのずと道が明けてくるなんてことは断じてないのです。
だから、彼には、今以上に自分と自分の写真を深掘りしてから、この業界のスタートを切ったほうがいいと思ったのです。
できることなら1年後、またお会いできることを楽しみにしています。
外苑スタジオ 田辺